2020-01-01から1年間の記事一覧
今年ももうおしまい。ちなみに去年のまとめはこちら。 小説部門 非小説部門 映画 音楽 買って良かったもの 小説部門 完全版はこちら と茅野さんの2020年読書まとめ - 読書メーターも *ナタリー・サロート『子供時代』(湯原かのこ訳)…ルリユール叢書のピン…
好きとか嫌いとかなくたんたんと先へ泳いで行ける人、泳ぐ能力はあるけれど陸地を離れてしまうのが怖くてあんまり遠くへ行かれない人、好きだから頑張って泳いでいく人、海へ憧れ続けて陸にいる人、海とは違う方向を見るようになった人。 『アダンの風』をつ…
疲れたわ、と彼女は言う。たった三キロ歩いただけじゃないの、とエリサベスが言う。そういう意味じゃない、と母が言う。あたしはもう、ニュースに疲れた。大したこともない出来事を派手に伝えるニュースに疲れた。怒りにも疲れた。意地悪な人にも疲れた。自…
毎日夢を見る。色の付いた夢。五感を刺激し続ける、まるで現実のような、ひどい悪夢。いつの間にかその悪夢の中に紛れ込んでしまい、気が付くと逃れようとしてももう逃れられない。夢はどんどん私の生活を浸食し続け、今ではそれに支配されて暮らしている。…
山尾悠子と金井美恵子のサインが入った『飛ぶ孔雀』が欲しいというなんともミーハーな欲望に逆らうことなく、浅草橋のパラボリカ・ビスへ。基本的に半径が家〜バイト先のせまいせまい生活圏内にいるのでちょっとした遠出である。体調が悪かったこともあり前…
大半の人とは、会わないまま死んでいく。連絡を取ることも噂を聞くこともなく、中には知らないうちにほんとうに死んでしまう人もいる。だとしたら、会うことがない人と、死んでしまった人と、どこが違うのか。[…] 会えるかもしれない、と、わたしは思い続…
一種のドーピングのようなものなのだ。音楽を聴いていないと手も足も出ない時がある。物理的にも、そして数分をただ息をしてやり過ごすだけのことにさえも。けれど音楽を聴くと、それが鳴っている何分かだけは、息を吹き返すことができる。アザミはときどき…
「なぜですか?一巻の書物が述べていることを知るために、別の書物を何巻も読まなければいけないなんて?」「よくあることだよ。書物はしばしば別の書物のことを物語る。一巻の無害な書物がしばしば一個の種子に似て、危険な書物の花を咲かせてみたり、ある…
「共有しない」ボタンを押し続けていないとあっという間に他人の発語に乗っ取られてしまう。私は私の言葉をつむげないと最初から知っていたし、そもそも言葉は私と他者を繋ぐためにあるのだから、私の言葉を守りたいと考えることすら無駄なことなのかもしれ…
無限の受動性(見えない強制的な受容)が人間の聴覚の基盤にある。言ってみれば「耳にはまぶたがない」。 聞くこと、それは離れていながら触られること。リズムは振動と結びついている。だからこそ音楽は、本人の意図と関係なく、隣の身体を親密なものにする…
彼女は彼を見つめた。今日の彼の髪は白っぽく見えた。彼女から四フィートほどのところにいながら、ほとんどこの場にいないかのようだった。彼は我々が「現在」と呼ぶものに対して自分をどう合わせたらよいのかわからないのだ。そもそも「現在」とは何だろう…
ホアキン・フォント 一九九七年一月、メキシコDF郊外、ロス・レオネス砂漠道、〈エル・レポソ〉精神科診療所。 退屈な時に読む本というものがある。それはたくさんある。心静かなときに読む本というのもある。そういうのが最良の本だと私は思う。悲しいとき…
『三月は深き紅の淵を』が素晴らしい作品だというのは、ここにいる我々や、ほんの少数の人間の共同幻想かもしれない。読書というのは本来個人的なものですから、これはいたしかたない。第一、我々は自分がちょっとばかし本を読んでいると自惚れているかもし…
だれかがくすくす笑って、ほかのだれかが「シッ」とたしなめる。あたしはふり向かない。女たちののっぺりした灰色の顔と悪意に満ちた目なんか見なくても、背後に存在を感じるだけでじゅうぶんだった。みんな死んじゃえばいいのにとあたしは思い、それを大声…
長野まゆみの『レモンタルト』を読んだ。いわゆるBLに関して知識ゼロゆえ、ほーこういう萌えがあるのねと、どこか新鮮さを感じながら。男性作家の設定する女性一人称にファンタジーが交じることがあるが、逆もまた然り。これは新宿紀伊國屋でやってた連作短…
きのう、生活必需品を買うのが苦手だと書いたが、逆に、あってもなくてもいいものを買うのは好きだ。必要以上のマーカーペン(さいきんはぜんぜん蛍光色でないものがたくさん売っている)、マスキングテープ、マニキュア、おやつ(とくに個包装のがたくさん…
たぶん、生活必需品を買うのが苦手だ。服、下着、おやつ以外の食べ物、絶対必要な化粧品(アイブロウとか)など。必需品なのにある程度選択の幅があるから、何を選んだらいいのかがわからない。だから、できるだけ決まったものを買うようにするとストレスが…
レヴィナスの議論のほとんどすべての決定的な点において、「別の仕方で」という意味の可能性ないしは構築は、「あたかも〜のように」にもとづいている。「あたかも〜のように」は、懐疑論における問いかけや言語の多義的本性がそうであるように、意味の開け…
——それは初めてのことだったの、あなたがこんなふうに言葉に捕らわれたのは?——それが以前にもあったかどうか、思い出せない。でも、これ以後も、人に襲いかかり人を閉じ込める言葉の外へと、怯えて逃げだしたことが何度もあったわ。——幸福という言葉でさえ…
最近読んだ、でいるもの。 ●高橋たか子『人形愛・秘儀・甦りの家』 三篇とも、中年以上の女が少年を人形にするというテーマがあり、たぶん澁澤龍彦への明確なアンチテーゼなんだと思う。『誘惑者』にははっきり澁澤が出てくるが、著者自身による略年譜にも19…
あさ起きてもまだくらく雨の音がして、じっとそれを聞いているとまたいつの間にか寝てしまっていた日々が恋しい。夏休みに入ってからはすっかり晴れの夏っぽい日が続いている、いちばん暑い時間帯に外に出なければならないのが夏への憎悪を増幅させる。『無…
私はノートをつけることが結構好きで、人がどうやってノートをつけているのかを見るのがもっと好きで、どれくらい好きかというと、小学生の時に「東大生のノートはなぜ美しいのか2」をお小遣いで買うほど好きで(東大に行きたいとかじゃなくて、普通に色ん…
絶対むりと思ってたレポートたちも、なんやかやとむしろ最後は余裕があり、ズルする(過去の自分のレポートを焼き増しする)こともなく無事に全部提出して、夏休みを迎えた。終わってみると、あんなにあわあわして絶望的な気分になってたのはなんだったんだ……
また二週間以上あけてしまった。 愛が他者との融合であるとするなら、愛が他人の申し分のない美点を前にしたときの恍惚であるとするなら、あるいはまた心穏やかになにかを所有することであるとするなら、マルセルはアルベルチーヌを愛してはいない。 レヴィ…
だいたい調子が悪いときは、この世界に好きなものがあるということを忘れる時で、なぜ忘れるかというと、他人を羨望したり嫉妬したりするからだと思う、つまるところ。ここに書くのを一週間以上開けてしまうのはよくない。 とくに仕事がきついとか、嫌な上司…
テキストを「変形する」にはテキストに自分から何かを付け加える必要はない。テキストを引用する、つまりテキストを切り取るだけで十分なのだ。 ロラン・バルト『批評と真実』保苅瑞穂訳 夜(さいきんは2、3時)寝る前に読んで付箋を貼り付けていたところを…
ぼくはもともと文学的な人間でも哲学的な人間でもなくて、またとくに行動的な人間でもなくて、自分が体験したことのなかで気になったことを丹念に敷衍していくタイプです。昆虫採集型です。だから日記や日記めいたものはずっと書いていまして、自分の人生は…
忘れるなかれ。私の無知ぶりはチャーミングではない。自然については何も知らないの、とかわい子ちゃんぶって告白するより、花の名前は知っておいたほうがいい。私ってよく道に迷うのと吹聴するより、方向感覚を磨くほうがいい。こういう言いわけは累積する…
精神分析理論がその中で決定的な役割を担ったこの広い反人間主義的な構想は、フェミニズムの理論にとっても意味と効果を持っている。〔…〕この構想はまた、フェミニストたちが、生きられた経験という無批判な概念に自分たちの有効性を置こうとする主張に用心…
勉強は一人でするものだ、ということには完全に同意するし、実際今まで「放課後友達と集まってファミレス(?ミスド?)で勉強する」などやったことがないし(そんな友達がいなかったんじゃない?という突っ込みは置いといて)、グループワークなんて死ぬほ…