最近読んだ、でいるもの。
●高橋たか子『人形愛・秘儀・甦りの家』
三篇とも、中年以上の女が少年を人形にするというテーマがあり、たぶん澁澤龍彦への明確なアンチテーゼなんだと思う。『誘惑者』にははっきり澁澤が出てくるが、著者自身による略年譜にも1968(36歳)前後に影響を受けたとある。またこの年表で気になるのが、34歳のときの「京都時代に環境から蒙った根深い男尊女卑による、生命力圧殺の症状が、ふいに昂じて、強度のノイローゼに」なったという記述で、彼女は京大仏文で修士をとっているがやはり相当過酷な世界だったのだろう。最近もTwitterで女性院生の過ごし辛さみたいなことが話題に上がっており、実際私も大学の哲学批評サークルなどの界隈をうろうろして感じることだが、まあ現在でもさほど改善されていないだろう。前にいちど女性教員が、「フェミニズムを学びたいなら、東大はおすすめできないよ」みたいなアドバイスをくれたことがあり、国立大学だと私立よりももっと男性の権威性が強いのかもしれない(実際はわからない)。瀬戸夏子の高橋たか子についての論考が『文藝』に載っていたのでそれも読んだけれど、やっぱり「名誉男性」への憧れ/憎悪を持つ女性を書くということが問題として挙げられていた。作品から離れたことを書いてしまったが、高橋たか子は全作読んでいきたい作家。
●山本貴光『マルジナリアでつかまえて』
本の余白に書き込みをする古今東西のマルジナリアを集めた書物。面白くて一気読み。石井桃子の凄まじい書き直しとか、デリダやアーレントの書き込みとか、やっぱり人の肉筆を見るのは愉しい。索引づくり(というか索引を作ろうとして読むこと)も参考になる。
●『超人高山宏のつくりかた』
『ナイトランド・クォータリー』vol.20に載っていたインタビューを立ち読みして面白かったのと、たまたま読書メーターを泳いでいたら見かけたので炎天下の中往復40分歩き、図書館まで借りに行った。まだ人文学の価値が認められていた東大&東京都立大学時代の昔話しか今のところ出てきてないけど、天才型というより結構勉強して「学魔」になったのだなという感じがする。(追記:でもこういう界隈の人びとが高橋たか子の「生命力圧殺」の一因であったりするのだろう)
紀伊國屋のウェブ書評空間の書評もいくつか読んだ。この人の紹介しているもの(バロック、マニエリスム)は結構興味分野で、とくにクリスティーヌ・ビュシ=グリュックスマンの名が出てきて、
『デーモンと迷宮-ダイアグラム・デフォルメ・ミメーシス』ミハイル・ヤンポリスキー[著] 乗松亨平、平松潤奈[訳] (水声社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG
,『バロック的理性と女性原理』を書いたこの人に自力でたどり着けていたのは結構嬉しかった。邦訳たぶん二冊しかないけれど、フランス語の生かしどころかもしれない。文フリで『精神機関史』を買うのを見送ってしまったことをちょっと後悔している。
●伴名練編『日本SFの臨界点 怪奇篇』
近所の書店がやたらSFミステリ幻想推しで、ずらっと面陳されており圧に負けて買ったけど、面白い。中島らもも津原泰水も読んだことなかったので、いろいろ読めてお得感ある。
●スーザン・ハンデルマン『救済の解釈学——ベンヤミン、ショーレム、レヴィナス』
前学期、レヴィナスとベンヤミンで別々にレポートを出したのだが、それを結びつけてくれるような本を探していたところ突きあったこの本。500頁超えの大著ながら書き方はわかりやすく、ド・マンのアレゴリーなども解説してくれているのでありがたい。J・バトラーのジェンダー論には正直飽きつつあるけれど、ユダヤ関連のもの、『分かれ道』とかはまだまだわからないことあるので読んでいきたい。
暑さと冷房と労働(なぜか今月過去最多勤務時間を叩き出した)とウイルスへの警戒で完全に疲れてしまっているけど、倒れない程度に頑張る。