2020-11-22(あき/あと)

疲れたわ、と彼女は言う。
たった三キロ歩いただけじゃないの、とエリサベスが言う。そういう意味じゃない、と母が言う。あたしはもう、ニュースに疲れた。大したこともない出来事を派手に伝えるニュースに疲れた。怒りにも疲れた。意地悪な人にも疲れた。自分勝手な人たちにも疲れた。それを止めるために何もしないあたしたちにもうんざり。むしろそれを促しているあたしたちにもうんざり。今ある暴力にも、もうすぐやって来る暴力にも、まだ起きていない暴力にもうんざり。嘘つきにもうんざり。嘘をついて偉くなった人にもうんざり。そんな嘘つきのせいでこんな世の中になったことにもうんざり。彼らが馬鹿だからこんなことになったのか、それともわざとこんな世の中を作ったのか、どっちなんだろうと考えることにもうんざり。嘘をつく政府にもうんざり。もう嘘をつかれてもどうでもよくなっている国民にもうんざり。その恐ろしさを日々突きつけられることにもうんざり。敵意にもうんざり。臆病風を吹かす人にもうんざり。
臆病風には吹かれるんだと思うけど、とエリサベスが言う。
正しい言葉遣いにこだわることにもうんざり。

 

アリ・スミス『秋』、木原善彦


茅野は痕跡を残しすぎた。うんざりして消えようにも消えきれないかもしれない。本当に、ちゃんと距離をよくとってやっていかなければ。

 

「精神病?ばかばかしい!」バディをあざけるように笑ってやった。「もし、正反対の二つの素晴らしいものが同時に欲しいと思うことが精神病なんだったら、私はまったく精神病でけっこう。そして、その二つの場所を行ったり来たり飛び回って残りの人生を送るつもりよ」

 

シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』、青柳祐美子訳