2020-10-25(薔薇の名前/ボルヘス/遠子)

「なぜですか?一巻の書物が述べていることを知るために、別の書物を何巻も読まなければいけないなんて?」
「よくあることだよ。書物はしばしば別の書物のことを物語る。一巻の無害な書物がしばしば一個の種子に似て、危険な書物の花を咲かせてみたり、あるいは逆に、苦い根に甘い実を熟れさせたりする。アルベルトゥスを読んでいるときに、後になってトマスの言うことが、どうして想像できないであろうか? あるいはトマスを読んでいるときに、アヴェロエスの言ったことを、どうして想像できないであろうか?」
「そうですね」私は感心してしまった。そのときまで書物はみな、人間のことであれ神のことであれ、書物の外にある事柄について語るものとばかり思っていた。それがいまや、書物は書物について語る場合の珍しくないことが、それどころか書物同士で語り合っているみたいなことが、私にもわかった。

 

ウンベルト・エーコ薔薇の名前』下巻、河島英昭訳

 

「〔…〕わたしは、この世のありとあらゆる物語や文学を食べてしまうほど深く激しく愛しているごくごく普通の可憐な高校生で、ただの文学少女です」
「一般的な女子高生は、いきなり本のページを引きちぎって、むしゃむしゃ食べたりしないと思いますけど。少なくともぼくの十六年の生涯で、そんな珍妙な女子高生は、遠子先輩以外見たことないし聞いたことないですよ」
遠子先輩がますます頬をふくらませ、わめく。
「ひどぉーーーい、女の子に向かって珍妙だなんてひどぉーーーい。傷ついた。心葉くん、きみって、家で薔薇の花にナンシーとかベティとか名前をつけて大事に育ててそうな優しい顔してるくせに、先輩に対してデリカシーが足りないと思うわ」

 

野村美月『”文学少女”と死にたがりの道化』 

 

薔薇の名前』と『文学少女』に間テクスト性を見出してしまった。『薔薇の名前』のほうはまだ読んでないひとにうっかりネタバレしてはいけないと思って決定的な箇所は引用できないけど、遠子先輩ってボルヘスだったんだ…。

 

ぶじエーコを読み終えられたので、エーコファイトクラブという噂のローラン・ビネ『言語の七番目の機能』にとりかかろうと思います。