2019-08-31(みずうみ/緑色にふちどられた)

 

 

いいかげんにそろそろ何かまとまったものを書かなくては、と思うのは八月が終わるからかもしれないし、短歌を一気にたくさん読んだからかもしれない。小説を書かない人で読む人はたくさんいると思うけれど、たぶん詩や短歌を書かないで読む人は少ない。ツイッターを見ていると短歌をやる人はなんか身を寄せ合っているようにみえる。書かない人に対してちょっと排他的な感じがする。気のせいかもしれない。とはいえ、わたしはわたしの書く文章が結構好きでよく読み返すし、まあまだ書くべきではないとも思っている。

今日も国会図書館に行った。手に入りにくくてその場で読み切れるものを選ぶので必然的に詩歌ばっかりになる。

 

みずうみという言葉のもつひびきと字面の美しさが好きで気に入っていて、ツイッターのIDにもしているのだけれど、短歌の頻出ワードでもある気がする。好きな人は人混みでもすぐに見つけられるように好きな言葉に過度に反応してしまうだけかもしれないけど。さいきん読んだ中でみずうみという言葉が出てくる短歌。

・みずうみに沈めた銃をなつかしむ月の光がそうするように(松野志保)

・みずうみに出口入口、心臓はみえない目だからありがとう未来(瀬戸夏子)

・みずうみを鞄にしまうあの世の疲れたみずうみ繰りかえすまばたき(〃)

・みずうみの絵葉書を出す片隅にえんぴつで水鳥を浮かべて (大森静佳)

・手をあててきみの鼓動を聴いてからてのひらだけがずっとみずうみ(〃)

同じワードで比較するとその使い方に歌人の特徴がよく表れている気がする。美しいという理由以外に頻繁に用いられる理由でもあるのだろうか。うみは水なのにみずうみという同語反復的な面白さかな。

川上未映子の小説にも湖が出てきた気がすると思って探したらあった。

湖のほとりは、くっきりとしていた。たとえば、ここには砂浜と海の関係みたいに曖昧なところがいっさいない。足を一歩でも踏みだせばそこは湖で、わたしは落ちてしまうだろうけれど、しかしわたしが足を一歩でも踏みださない限り、わたしがそこに落ちてしまうということはない。そう思うと愉快だった。あちらとこちらに、誰にでもわかるようにきちんと線が引かれているのだ。

「マリーの愛の証明」

明確な境界、ということか。「みずうみに出口入口」もそのイメージがあるかもしれない。でもそれなら池でもいいはずだ。

 

以下今日読んだ本の感想と引用。

●松野志保『モイラの裔』

ちょっと自己陶酔みたいなのが強すぎると思った。「ゴシックな少女」としての自意識。それでも好きなのはいくつか。

好きな色は青と緑と言うぼくを裏切るように真夏の生理

眺めのいい部屋で生まれた恋だから柩に入れるサフランの束

いつの日か顧みなくなる歌ゆえに歌う わたしは雲雀ではない

黒い服ばかり着たがる少女たち「鳩は放たれた。さあ次は火だ」

あと、「二重夏時間」という章立ての言葉が良かった。堂園昌彦の歌集読んだ時思ったんだけど、短歌よりも目次のほうがいいときがある。

 

八柳李花『Beady-fingers』

現代詩は短歌以上にわからないし、どうしても目がすべってなかなか読めない(ふだんいかに意味しか捉えない読み方をしているかがわかる)のだけれど、八柳李花の詩はすごく好きだと思った。なぜかはまだわからない。まず名前の字面が好き。たぶん言葉をそれがもつ意味ではなく、物質としてそのままに受け取るということがちょっとできるようになったから詩に対する抵抗感がうすれたのだと思う。メモする時間がなかったのでまた今度行った時に写してこよう。

 

●瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』

やっぱり出してくるモチーフが唐突すぎてついていけないものが多いのだけれど、それでもとことん異質なものを出そうという切実さはわかる。

「イッツ・ア・スモール・ワールド」より

薄目をあけているくまを横目に見てあるくもうひとり ちがうって

気にしなくていい プライドを可愛がる頭のなかで ゆっくりしていって

謳歌して 行く先のない 緑色にふちどられた境遇でも くまのプーさん

気まずい怒り キキララでもキティでも ないんだから 期待してる

わたしは合図ではない 思いあまって待ちきれない みんなが不幸になること

よい子だけが星座になる 部屋が四角く区切られて 言うこともできないけれど

心底はやく死んでほしい いいなあ 胸がすごく綿菓子みたいで

それにしても短歌は気に入ったものを覚えられるし、手軽に引用したくなるのがいいな。連作になっているもののタイトルをはずしてこうやって並べるのがいいのかはわからない。

 

多和田葉子『尼僧とキューピッドの弓』

これはちょっと期待はずれだった。多和田はたくさん書いてるからそれだけちょっとムラがあると思う。面白いものは面白い。