2019-08-17(水晶内/惨めなイマージュ)

 

 

レポートにも追われてないし何の予定もない日というのがたぶん一ヶ月以上ぶりで、絶対に外に出ないという強い意志のもとにずっと本を読んでいた。台所に飲み物を飲みにいったら、弟が包丁を持ったまますいかを食べていて、いまわたしが弟を怒らせるようなことを言ったら刺されるのかもしれないと思うとすごく怖かった。ずっと家にいるけどそれは外が暑くて虫が嫌でお金がもったいないからで、家の居心地がいいわけではない。

 

笙野頼子『水晶内制度』

わたしはどちらかといえば政治に無関心で、それはいけないと思いつつも自分に関係のあることとは思えず、というか周りがそうだったからある程度しょうがなかったと思うのだけれど。だから昨年、笙野頼子の「なにもしてない」を読んで、なんで天皇の話とか出てくるのか全然わからなかったし、ぽかん、という感じだった。ここのところようやく、今までの態度を恥じてちゃんと考えなければいけないと思いはじめたのだった。『水晶内制度』は、日本の男性権力・象徴の根源となる古事記などの神話を書きかえるということが主題なのだけれど、その試みの重要さはわかるように思う。あと、既存の日本の小説を更新しようと思ったら日本語を少しずつ破壊しながら進めなければならないことも。でも、そのやり方というか、個人的な恨みとかを露骨に小説に出されると冷静にひいてしまい、これを好きかと問われるとうーんとなる。しばらく笙野はいいやと思うけど、『レストレス・ドリーム』は読んでおこう。

 

●サラ・サリー『ジュディス・バトラー竹村和子他訳

五月くらいから長い時間をかけて『ジェンダー・トラブル』を読んでいて、一章はあまり予備知識がなくても読めることは読めるのに、二章で精神分析の話が出てきたりして、フランス現代思想というかそこらへんの流れを踏まえてないとなかなか厳しいということがわかり、ジェントラはジェンダー論の必読書!みたいなわりと軽い見かけだった気がするんだけどどうやら全然違かった(というか「セックスはすでにつねにジェンダーである」という言葉以上のことをちゃんと読んでいる人がどれくらいいるのか少々懐疑的になった)。竹村和子の『境界を攪乱する』と、この『ジュディス・バトラー』はだいぶバトラー読解に役立ってくれた。バトラーは悪文で有名だけど、それは言説攪乱のパフォーマティブな実践なんだ!ということらしく、いやしかしそれは自己の言説が明確でないことの言い逃れだ、という批判もある(わたしもちょっとそう思う)が、さらにそこで発話の前にある主体などない!と言い返されてしまうのだろう。

批評はそもそも現体制への問題提起であり、また革新的理論は従来の思想パラダイムへの批判であるとしても、問題提起や批判それ自体のなかから、オルタナティヴな社会の姿は見えてこない。加えてバトラーがその多くを負っているポスト構造主義の考え方は、近代主義的な主体を空洞化するので、個人の外延を特定しない新しい政治的枠組みを、明示的・具象的に叙述することは困難である。

竹村和子『境界を攪乱する』p177

 

金井美恵子『タマや』

これはもう純粋に楽しくてすぐに読みきった。金井美恵子はいずれ全作品(めちゃくちゃ多いけど)読むことになりそう。

 

中上健次『十八歳、海へ』

「名前はよく見かけるけど読んでない作家」リスト筆頭の中上をようやく読んだ。主題への共感度は低いけど、それを凌ぐ圧倒的な文章には引き込まれた。

僕はたぶん〈俺〉を主人公にして滑稽であり、しかもこの雨のふりつづける朝のようなしろい色彩をもつ抗いが満載された小説を書く。僕はカメラアイを思わせるメタファを多用して〈俺〉そのものの存在をとらえ、〈俺〉の背後にある僕たちの世代をとらえるのか?

惨めなイマージュにみたされた少年の孤独なオルガスムスとともにふきこぼれた精液の雨は生垣に使われてあるあじさいのはなびらをふるわせ街路樹をおおいつくししおれかかった空にむかってのきのきつきささるビルディングをたちまちのうちにぬってしまう。

ナンセンスだ。滑稽だ。言葉など無意味だ。雨はふりつづける。まるでそれぞれに完結した物語をもってでもいるかのように、僕たちや、カーブをえがいているこの電車の軌道にもふりつづけている。

(斜体は行下げの部分)

読んでいる間、なぜかBUMPの「ガラスのブルース」が脳内に流れた。弟が包丁を持っているのを怖いと思ったのはもしかしたらこの本を読んでいたからかもしれない。この本と一緒に津島佑子の本を買っていたのだが、解説が彼女だった、ちょっとした偶然。

 

柄谷行人日本近代文学の起源

必読書みたいなやつ、授業で内容は説明されたことがあるのでぱらぱらと。バトラーと同じでこれもフーコーの理論(本質・内面があってそれに基づいて表現をするのではなく、その逆で、本質や内面は後からつくられるということ)を下敷きにしたものだから、フーコーを読まねばと思った。

 

立木康介監修『面白いほどよくわかるフロイト精神分析

タイトルが大学受験参考書っぽい。まだ途中だけど確かに読みやすくてわかりやすい。

 

本を読むと不思議なことにもっと読む本が増える。ちゃんとした本棚を部屋に置いてからぽんぽん買っているので、積読がほんとうに山のようにある。たくさん読むぞ。